2013年12月18日水曜日
生き物を育てる喜びは幼少期から。 極めた技で金賞受賞へ

京成バラ園芸株式会社 研究開発部
武内 俊介氏
八千代市にある京成バラ園。
1000品種、7000株ものバラが植栽されている、日本が世界に誇るバラの園だ。
毎年30万種ものバラが芽生えるが、商品に至るのはごく数種。
そんな厳しいチェックを潜り抜け、日の目をみたバラたちの美しさは他に代えがたいものがある。
今回は日本人2人目となるローマ国際コンクールで金賞を獲得し、京成バラ園芸の中心研究者の一人であり、三代目育種家の武内俊介氏にお話を伺った。
バラの育種家として年間30万種を研究
同じ千葉県内ながら、京成バラ園からは遠く離れたロケーションにあるバラ研究所。
1万坪という広大な敷地に、パートを含む10人程度の所員がバラの育成に携わっている。
「あまりに広くて1日ほとんど誰とも話さないような日もあるんですよ」というのは、研究開発部所属で育種家の武内俊介氏。
取材ではガラスハウスで一次選抜のためのバラが所狭しと植えられていた。
ここでは交配育種といって、めしべに別の品種の花粉をつけて種子を採り、新品種へと導いていく作業が行われている。どの種子もまさに〝一粒種〟。
ハウスにあるバラにはそれぞれに両親がどれだか分かるように番号が付けられているが、武内氏はどれがどんな特性をもっているか、概ね記憶に入っているという。
「そこから香りや育成具合、病気への耐性などをみて、少なくとも両親より性質が良いものを選んでいきます。
系譜上の親の性質がすぐわかるようにしておくのも、この仕事で重要なポイントですね」。
その後選ばれた品種が日の目を見るまでに、約10年の期間を要する。まさに気が遠くなるような作業だ。
京成バラ園芸にはかつて〝ミスター ローズ〟と呼ばれた鈴木省三氏(1913~2000年)がいた。
国内外の主なコンクールで受賞され、戦後間もない時からバラ展の開催、品種改良の再開、日本のバラ会の創設に奔走し、日本にバラを広めた第一人者である。
その鈴木氏を師と仰ぎ、京成バラ園芸で三代目の育種家として、日本では鈴木氏に次いで2人目となるローマ国際コンクールで金賞を獲得したのが武内氏だ。
「実は鈴木さんは私の母校の先輩でもあり、大学院に進学(農学)したときにはバラを研究材料にするのにあたってお世話になったりと、学生時代から縁のある方でした。三代目などと周囲は仰ってくれていますが、鈴木さんはじめ前任者たちが、半世紀もの前から研究を重ねた膨大なデータがあるうえでのことです」と武内氏はいうが、もちろんデータがあるからといって誰もがローマ国際コンクールで金賞は取れない。
また受賞そのものは育種家として栄誉であるが、さらに企業に利益をもたらす可能性をも考えているという。
「独りよがりではなく、いかに人々に認められるか、多面的にバラを見つめるのが研究者の役割です」
国際コンクールを受賞する意味とは
ここに至るまで、武内氏はどのように技術を磨いてきたのだろうか。「幼少期から花だけでなく、生き物を育てることそのものに関心が高かったです。
細かな作業が大好きで、文集では〝図鑑をつくる〟と書いていました。園芸に本格的に取り組んだのは中学2年生のあるとき、セントポーリアを育てたいと思い、買ってもらった一鉢がはじまりだという。「もっと育てたい、と。お小遣いを投入して苗を購入し、部屋に棚を取り付け、ついには室内いっぱいに2千鉢まで増やしました」。ほかにも草花や果樹などをとことん育て上げて、自らの凝り性を発揮していった。そんな〝趣味〟が高じて、高校では自らの夢に「育種家」と挙げている。
その後は前述の通りに大学の修士課程まで応用生物科学を学び、現在の京成バラ園芸の研究開発部に就職することになるのだが、入社した当時にはすでに鈴木氏は後進に道を譲っており、平林浩氏が二代目の育種家だった。
平林氏には「育種家になるには10年かかる」と言われたが、2000年に平林氏が急逝したことにより、急遽武内氏が三代目育種家を継承することになった。
武内氏入社5年目のことだった。「通常、入社5年目くらいではバラの香りを嗅ぐ役割などをしている段階ですので、そんな若手に何ができるというような反発を周囲から感じることもありました」
そんな声を封じるように、武内氏は国内外のコンクールに挑戦し続け、国内の「国際ばら新品種コンクール」をはじめ、海外はフランスやイタリア、ベルギーといった欧州のコンクールを受賞し、2010年の「ローマ国際コンクール」金賞という快挙も成しえた。
コンクールは、苗木を現地に送って、その地の栽培管理者が育てるもの。発育中の様子などを含め、2年もの歳月をかけて賞が決まるのだ。
気候も土壌の性質も違う海外で安定して育ち、世界が認める美しいバラとして受賞することがいかに難しいかが分かる。
さらに単なる育種家の自己満足に終わらせてもいけない。〝賞〟という価値に加え、人々がバラそのものに魅力を感じ、購入したくなるものでなければならない。
大きな話題となったローマ国際コンクールの受賞だったが、「一般公募で受賞バラのネーミングを募集して、〝快挙〟と決まりました。
文字通りの結果だったのでネーミング自体は気に入っていますが、このネーミングにはまだ未熟な自分に対する意味も多分に含まれていると思っています。
ですから何とか2度目の受賞が実現するよう努力し、次回は自分が名付け親になってみたいですね」と決意を新たにしていた。
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『京成バラ園』
1000品種7000株のバラを中心に、四季折々の植物が楽しめるローズガーデン。
3万㎡の園内には原種、オールドローズから最新品種まで植えられており、園内を1周するとバラの歴史がわかる。
春と秋の見頃には、バラをより楽しむためのイベントを開催。
また1年を通して、バラをはじめとした各種セミナーも開催されている。
2010年には恋人の聖地に認証された。
お問い合わせ:京成バラ園
住所:千葉県八千代市大和田新田755番地
TEL:047-459-0106
営業時間:9時~17時(季節により変更) 休園日:無休
http://www.keiseirose.co.jp